仙台高等裁判所 昭和30年(ネ)404号 判決 1964年2月24日
控訴人
黒須純一郎
代理人
庄司作五郎
被控訴人
千葉二郎
ほか七名
主文
原判決を取り消す。
被控訴人らは連帯して控訴人に対し金五万円およびこれに対する昭和二七年一二月二五日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人らの連帯負担とする。
事実
控訴代理人は主文第一・二項同旨(従前の請求の趣旨を減縮)および」訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの連帯負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張並びに証拠関係は、控訴代理人において
一、原判決二枚目表一二行目「相互にうち合つて遊戯中」の次に「控訴人および訴外千葉浩、高橋東市の三名はパチンコの弾丸を消費し尽したので、被控訴人らの子供四名が二名宛双方に別れてうち合うこととなり、控訴人および右浩、東市の三名が傍観中」を加える。
二、控訴人としては被控訴人二郎、きよ子の子賢治のうつた弾丸が控訴人の左眼に命中したのではないかと考えるのであるが、それが確然としないところ、被控訴人らの子供四名中の誰かのうつた弾丸が控訴人の左眼に命中したのであるから、いずれにせよ被控訴人らは民法第七一九条第一項、第七一四条第一項による損害賠償の責に任ずべきである。
三、なお、従前の損害賠償請求金額を慰藉料金五万円のみに減縮し、被控訴人らに対し右金五万円およびこれに対する被控訴人らに本訴状が送達された日の後である昭和二七年一二月二五日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
と述べ
証拠≪省略≫
理由
一、控訴人および控訴人主張の被控訴人らの各子供が昭和二六年当時いずれも未成年者(被控訴人ヨシノについては真正に成立したものと認めるべき、その余の被控訴人については成立に争いのない甲第五ないし第九号証によれば、控訴人は昭和一七年五月一三日生、被控訴人二郎、きよ子の二男賢治は昭和一三年一二月二一日生、同龍治、こはるの二男陽孝は昭和一四年九月一二日生、同清一郎、みつをの長男伸蔵は昭和一六年一月三日生、同健吾、ヨシノの三男勘孜良は昭和一五年一月二七日生であることが認められる。)で、それぞれ法定代理人である被告控訴人ら実父母の保護監督下にあつたものであるところ、同年一一月二〇日に控訴人と被控訴人らの右子供四名が控訴人主張の鈴木三郎方附近でパチンコ遊びをしていた際、控訴人がその左眼を負傷したことは当事者間に争いがない。
二、控訴人は控訴人の右負傷は右パチンコ遊びの遊戯中被控訴人らの前記子供四名の中のいずれかの発射した弾丸が控訴人の左眼に命中したことによるもの、すなわち右子供四名の共同不法行為によるものである旨主張するので、次に判断する。
(1) ……を綜合すれば、前記パチンコ遊びは前示一一月二〇日の夕刻頃控訴人および被控訴人らの前記子供四名のほか同年配の千葉浩、高橋東市が各自俗にパチンコ(豆鉄砲ともいう)と称する玩具(木の又にゴム紐をつけ、これで木の実などの弾丸をはじいて遊戯するもの)を手にして前記鈴木三郎方前の幅六六米の県道をはさんでふた手に別れ、右パチンコで木の実(かしの実)をはじいて射ち合いをしていたもので、その遊戯中被控訴人らの前記子供四名のうちいずれか一人の発射した木の実が、弾丸がなくなつたので射つ手をやめてそばで見ていた控訴人の左眼中に命中し、よつて控訴人が同部位に治療約三ケ月を要する外傷性白内障並びに硝子体出血症の傷害を受けたことが認められ、右認定を動かすに足る証拠はない。
(2) ところでパチンコ遊びは前認定のとおり子供らの遊戯の一つではあるにしても、石の投合いと同様そこによるべきなんらのルールもなくたゞ木の実等を射ち合うもので、豆鉄砲ともいわれるごとくそれ自体ある程度の怪我のもととなるべき危険を蔵していることは経験則上明らかなところであつて、その点において危険な遊びとして子供らに禁止されてしかるべきものである。従つて遊戯者としてはこの場合相手方に怪我を与えないようできるだけの注意を払うべき義務があるといわなければならないところ、前記子供らの遊戯中の状況から見れば、子供らは右のような注意義務を尽していなかつたことが明らかである。
(3) 尤も右パチンコ遊戯のやり方から見て遊戯者は木の実等が自分に命中することをあらかじめ容認しているものと認められなくはないが、前記のような危険な遊びについて前記子供らにそのような容認能力があるかどうかはきわめて疑わしく、その点で右パチンコ遊戯中の弾丸の命中に違法性がないということはできない。
(4) そうすると前記子供四名のうちの誰の発射した木の実の弾丸が控訴人の左眼に命中したかについて明らかな主張も立証もない本件においては、右遊戯中に控訴人がその左眼に受けた前記傷害は前記子供四名の共同不法行為によるものと見るほかはない。
三、次に前記子供四名が右共同不法行為当時前示のとおりいずれも未成年者(満一〇年ないし一二年)であつたとすれば、反証のない限り右子供らは民法第七一二条の規定によりその行為につき賠償の責に任じないことになるが、その反面前示のとおり右子供らの監督者である被控訴人らにおいてその監督義務を怠らなかつたことの反証を挙げない限り(本件にはそのような主張も反証もない。)同法第七一四条の規定により各自その子供らが前記共同不法行為により控訴人に加えた損害、すなわち前示傷害を賠償する責に任ずべきものである。
四、そこで右賠償すべき損害の額について案ずるに、この点につき控訴人は慰藉料として金五万円のみを主張するが、原審証人鬼怒川親雄の証言並び当審における控訴人法定代理人黒須久、当審における控訴人本人尋問の結果に徴すれば、控訴人は、前記共同不法行為により左眼に前示のような傷害を受けた結果、昭和二六年一二月二三日から同二七年三月二五日まで仙台市元寺小路にある鬼怒川眼科病院に入院のうえ手術、治療を受け、退院後一年くらい同病院に時折通つて治療を続ける等の手当を続けたため、左眼の失明は免れたものの、その視力は〇、五以上に回復せず、そんなことから勉学も思うに任せず、現在(昭和三六年七月当時)は高校進学を諦めて家業に従事していることが認められ、右事実よりすれば控訴人が右傷害を受けたことにより覚えた精神的苦痛はきわめて大きいものであつたことが察知できるのであつて、これに対する慰藉料の相当額は、控訴人が前記パチンコ遊戯の仲間の一員であつたという状況を勘案して見ても、金五万円を下るものではないと考える。
五、それなら被控訴人らに対し慰藉料金五万円およびこれに対する被控訴人らに本訴状が送達された日の後であること記録に徴し明らかな昭和二七年一二月二五日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損金の連帯支払を求める控訴人の本訴請求は正当であつて、これを認容すべきである。右と認定を異にする原判決は不当であつて、その取消を免れない。
六、よつて民事訴訟法第三八六条、第九六条、第九三条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。(裁判長判事高井常太郎 判事上野正秋 新田圭一)